こんにちは。データエンジニアの田頭(tagasyksk)です。 本記事では、MCPとAIエージェントを活用して、複数CRMの顧客情報を横断的に検索できるようにした事例をご紹介します。
背景
ファインディでは、エンジニア組織をあらゆる場面で支援するため、複数のプロダクトを展開しています。

事業成長に伴う課題として、お客様の大切な情報がプロダクト毎にサイロ化してしまう状況が起きました。
そこで、この課題を解消し、一社でも多くのお客様にファインディの価値を届けるため、CRMに蓄積されていた顧客情報をBigQueryに集約し、部門横断で利用できる「共通企業マスタ」を構築しました。
これにより、全部門が常に同じ最新の顧客情報を参照できるようになり、スムーズな連携が可能な体制を整えました。
しかし、この共通企業マスタをどのようにセールスチームやCSチームに届けるかが新たな課題となりました。 全員にSQLを書かせるのは現実的でなく、新しい分析インターフェースを作るのも工数がかかります。そこで、MCPとAIエージェントを活用したSlack上での企業検索システムの構築に取り組みました。
システム構成図

Slackとソケットモードを利用して疎通するAIエージェントサーバーと、後述するBigQueryのMCPサーバーをCloud Runのマルチコンテナ構成を利用してホスティングしています。
技術選定
AIエージェントのフレームワークには、GoogleからリリースされているAgent Development Kit(ADK)を採用しました。
ADKを選定した理由は次の通りです。
- エージェント間連携の簡易さ
- Google Cloud統合
- MCP Toolbox for Databasesによる簡単なBigQuery接続
エージェント間連携の簡易さ
ADKでは、次のようにシンプルなコードでエージェント間でのオーケストレーションを実装できます。
今回のケースでは、企業の業務情報や従業員数をWEBから取得したいユースケースがあったので、Google検索ができるエージェントをサブエージェントとして実装しています。
# Google検索で企業の情報を取得するエージェント google_search_agent = LlmAgent( model="gemini-2.5-flash", name="google_search_agent", description="A helpful AI assistant that can search company information from google.", instruction=GOOGLE_SEARCH_AGENT_INSTR, tools=[google_search], ) root_agent = LlmAgent( model="gemini-2.5-pro", name="company_master_agent", description="A helpful AI assistant that can search company.", instruction=ROOT_AGENT_INSTR, sub_agents=[google_search_agent] #Google検索エージェントをサブエージェントとして追加 )
タスクごとに細かくサブエージェントを立てられるため、非常に見通しの良いエージェントシステムが構築できます。
Google Cloud統合
データ基盤をBigQueryで構築しており、Geminiも活用している弊社にとって、権限やホスティングに必要な知識を新しくキャッチアップする必要がないのはかなり大きかったです。
MCP Toolbox for Databasesによる簡単なBigQuery接続
MCP Toolbox for Databasesでは、次のようなyamlファイルを定義するだけで簡単にBigQueryへの接続情報をMCP化できます。
my-bigquery-source: kind: bigquery project: ${your_project} location: asia-northeast1 toolsets: search_company: - search-company-by-name tools: search-company-by-name: kind: bigquery-sql source: my-bigquery-source description: 企業情報を企業名から検索する。 parameters: - name: company_name type: string description: 企業名 statement: SELECT * FROM `${your_dataset}.companies` WHERE company_name LIKE CONCAT('%', @company_name,'%');
MCPサーバーは、次のようなコマンドで簡単に起動できます。
containers:
- image: us-central1-docker.pkg.dev/database-toolbox/toolbox/toolbox:latest
name: toolbox
args:
- "toolbox"
- "--tools-file"
- "/app/tools.yml"
- "--address"
- "0.0.0.0"
- "--port"
- "5001"
エージェントからは次のように参照させると、yaml上で登録したtool(今回はsearch-company-by-name)を使えるようになります。
from toolbox_core import ToolboxSyncClient toolbox = ToolboxSyncClient("http://localhost:5001") search_company_tools = toolbox.load_toolset("search_company") agent = LlmAgent( model="gemini-2.5-pro", name="company_search_agent", description="A helpful AI assistant that can search company in BigQuery", tools=search_company_tools )
このように事前にBigQueryとの接続を定義しておくことで、意図したSQLを使ってデータにアクセスさせる事ができ、不要なデータベースの参照や誤ったコマンドを防ぐことができました。
工夫した点
オーケストレーションの設計
メインエージェントのInstructionはサブエージェントのユースケースのみを記載し、BigQueryやGoogle検索の具体的な利用方法はサブエージェントのInstructionに記載しています。 これにより、メインエージェントは全体のオーケストレーションに集中し、各サブエージェントは専門的なタスクに特化できるような設計と なっています。
ツールを搭載したサブエージェントの呼び出しについて
2025年7月現在、ビルトインツールやPythonの関数で定義したツールを搭載したエージェントを2つ以上同時にサブエージェントとして呼び出すことができません。
エラー回避策として、エージェントをToolとして呼び出すAgentToolというラッパーを使っています。
# toolを持ったサブエージェントを定義 google_search_agent = LlmAgent( ~~~, tools=[google_search], ) bigquery_search_agent = LlmAgent( ~~~, tools=[bigquery_search], ) # AgentToolでラップ google_search_agent_tool = AgentTool(agent=google_search_agent) bigquery_search_agent_tool = AgentTool(agent=bigquery_search_agent) # メインエージェントからはツールとして参照 root_agent = LlmAgent( ~~~, tools = [google_search_agent_tool, bigquery_search_agent_tool], )
Slack統合
新しいツールを導入することで利用者の負担を増やすことを避けるため、既に社内で日常的に使用されているSlack上でやりとりできるシステムを構築しました。 ソケットモードで送信されてきたメッセージでエージェントを起動し、返答をSlackに返却するMCPクライアントを実装しています。
class SlackToADKClient: """Slack メッセージを ADK エージェントに橋渡しする MCP クライアント""" def __init__(self): self.slack_app = AsyncApp(token=SLACK_BOT_TOKEN) self.session_service = InMemorySessionService() async def handle_slack_message(self, event, say): """Slackメッセージイベントを処理""" user_id = event.get("user") message_text = event.get("text", "") # エージェントに問い合わせ response = await self.query_adk_agent(message_text, user_id) await say(text=response) async def query_adk_agent(self, message: str, user_id: str): """エージェントにクエリを送信""" # セッション管理 session = await self.session_service.get_or_create_session(~~~) runner = Runner( agent=self.company_agent, session_service=self.session_service, ) # エージェントの実行 events = runner.run_async(~~~) # ~~~応答処理~~~ return response_text
Slack側からは、Slack Botにメンションする形で簡単に企業情報を検索できるようにしました。
企業名で検索すると共通企業マスタの内容を回答してくれ、かつ事業内容などの企業マスタに含まれない情報はGoogle検索をベースにして回答してくれるようになっています。
導入後の効果
運用開始から1ヶ月で、インサイドセールスやカスタマーサクセスのメンバーの40%近くに利用されています。
ユーザーからは次のような声をいただきました。
- 各サービスごとの社内担当者がすぐわかるようになり、社内連携が迅速になった
- Slackで情報の確認ができるため、展示会やイベントの会場からスマホで企業の情報を得られるようになった
一方で、検索機能については次のフィードバックもいただいています。
- 全角アルファベットで検索したら、共通企業マスタ上では半角で登録されていて検索できなかった
- 同一会社名で重複しているレコードが表示され、どちらが正しいかわからない
この課題については情報源である共通企業マスタの品質向上によって解決していけるものです。データ品質のテストをより厚くしたり、各CRMの担当者と協力してデータクレンジングを進めることで改善を進めています。
今後の展望
現在の検索機能をベースに、さらなる機能拡張を計画しています。
例えば、現在は企業名に基づいた検索のみ実装していますが、企業マスタに存在する様々なカラムから検索フィルタをエージェントが自動で作成し、営業リストとして提供する機能などを考えています。
終わりに
いかがでしたでしょうか?今回は弊社でのMCPとAIエージェントの活用について書きました。
AIエージェントの活用は、単純な検索だけでなく、将来的にはより高度な顧客分析や提案機能へと発展させることができる可能性を秘めています。今回の事例が、同様の課題を抱える組織の参考になれば幸いです。
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